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  • 豊かな森づくりにつながる木材利用推進公開セミナー

    再造林どう進める、山に利益の還元を/都市で木材需要増、大径木の製材が鍵

     秋田経済同友会は11月22日、秋田市のANAクランプラザホテル秋田で「豊かな森林につながる木材利用推進公開セミナー」を開いた。会員約30人、林業木材事業関係者、行政・議会関係者ら約70人の計約100人が参加した。宮大工の講演や林業、建築業関係者によるパネルディスカッションを通して日本の木材文化や木材産業を取り巻く現状に関する理解を深めた。

    講演する菊池恭二氏
    講演する菊池恭二氏

     秋田市の秋田城東門の再建や天徳寺の修復を含め、全国各地の神社や寺院の建築、文化財の修復を専門に手掛ける工務店「社寺工舎」(岩手県遠野市)の菊池恭二代表が「伝統的木造建築から学んだこと」と題して講演した。法隆寺の再建で知られる故西岡常一氏に師事して、奈良・薬師寺金堂の修復に携わった経験を振り返って「朝夕のお茶出しを6年間続け、西岡棟梁と副棟梁たちの打ち合わせを毎日聞いていた。仕事の進め方、職人の配置の仕方を学んだ」と話した。また、日本は木材の種類が豊富で「木の特性に合わせて用途を変えることができる。腐食した部分を交換して補修できるなど利点は多い」と指摘。同時に「どんな樹木でもまっすぐ均一には成長してはいない。反り返りやすい向きによって「表」と「裏」があり、その組み合わせ方でも強度は増す。木の癖を見極めて使うことが大事」と述べ、活用の仕方次第で、木造建築物は長持ちさせることができることを強調した。

    パネルディスカッション
    パネルディスカッション

     パネルディスカッションでは「風土の面から日本建築を考える」のテーマで意見交換した。秋田経済同友会員の石塚真人・秋田テレビ社長がモデレーターを務め、菊池代表、景観デザインや建築史を研究している秋田公立美術大学の石渡雄士助教、山林所有者の立場で那波三郎右衛門・秋田経済同友会顧問の3氏がパネラーを務めた。

     助言者としてパネラーとともに登壇した小野泰太郎・小野建築研究所代表取締役が「令和3年に木材利用促進法が施行されてから、東京海上や住友林業が本社ビルを木造にすることを決めるなど大都市で木材需要が増大し、その傾向は広がりつつある。一方、日本では零細な林家が多く、再造林がなかなか進んでおらず、本県を含めて産地が将来、安定的に木材を供給できるかが問われている」と問題提起した。

     木材を張り合わせて作るCLT(クロス・ラミネーテッド・ティンバー)を使った建築物が増えている点を踏まえて石渡氏は「人が利用できる木造の高層建築物は安土桃山時代にさかのぼり、天守閣がそれに当たる。最近はCLTの出現によって高層の木材建築物が急増している。ただ、CLTはコストが高いほか、扱いが難しく大手工務店以外には普及していないのが難点」とした。菊池氏は「木目の美しさ、色合いの温かさなどから杉は化粧材としての需要が高い。秋田杉は今後も注目される」と述べた。

     小野氏は、大手の不動産・住宅販売会社が最近、九州などの山間地に大型製材所を建設して自ら資材を調達し、流通を簡素化する「新たな木材流通の胎動」がみられる点を紹介。「流通コストの削減が狙いで、こうした動きに本県の木材産業界がどう対応していくか検討を急ぐ必要がある」と指摘した。

     また、改正建築基準法では、太い柱や厚い壁には、それ自体に耐火力があるという「燃えしろ設計」の考えが取り入れられている点を紹介。建築資材として、樹齢を重ねた大経木が注目され、高く評価されているものの、本県には、太い樹木をカットできる製材所がないため、比較的若いうちに伐採し、大根の「かぶらむき」のようにスライスして安価な合板の材料に回しているケースが多い現状を問題視。「木材の価値が適正に評価され、山林所有者に利益が還元されて、再造林が進む仕組みを取り戻す必要がある」と強調した。

     那波氏は、山林所有者の責務を「切ったら植えること」と表現した。ただ、苗木を植えて育てるためには費用が掛かり、換金できるまでには長い時間を要することを紹介。その上で広大な山林を100区画に分け、毎年1区画ずつ伐採と植林を繰り返し、樹齢100年の木材を永続的に出荷する「法正林」の考えを提唱。「林業関連の従事者を県内に定着させる人口減対策でもある」と述べた。

     公開セミナーの運営は、地域開発委員会が担当し、佐々木創太委員長が全体の進行役を務めた。講演に先立って、佐川博之代表幹事が開会の挨拶をした。セミナー終了後には懇親会を開き、パネラーと会員があらためて森づくりの大切さについて意見交換した。

    木材利用推進公開セミナー
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