秋田経済同友会は8月28日、秋田市のANAクラウンプラザホテル秋田で会員例会を開き、SMBC日興証券金融経済調査部の浅野達サステナビリティ・リサーチ室長(チーフESGアナリスト)が「再エネビジネスと関連分野の動向」と題して講演した。

浅野氏は初めに、ESG、特に環境問題に対する最近の潮流について解説。「欧州では安全保障や移民などの問題が優先されているものの、気候変動対策が重要だとする認識は変わっていない。米国でもトランプ政権で後退しているものの、州や企業は取り組みを継続している」と述べた。気候変動の緩和は、省エネ化とエネルギーの脱炭素化が基本であり、「ネットゼロ達成のためには太陽光と風力がエネルギー供給を主導する必要がある」とした。
また、世界の発電容量は、太陽光と風力を中心に急伸し、中国がけん引している状況を紹介。再エネ事業の特徴に関しては「短期的な採算性では化石燃料に劣るものの、長期的には、需給がタイトになる可能性が化石燃料より高い」と指摘した。
再エネ市場に影響を及ぼす重要因子として「米国の脱・脱炭素」「対中国依存」「人工知能」の3つを挙げた。このうち、人工知能に関しては「生成AIの発達、データセンターの設置などに伴って電力需要は飛躍的に上昇する可能性があり、それをけん引するグーグルやアマゾン、マイクロソフトなどは世界最大級の再エネ購入者になっている」と紹介した。
再エネ海洋利用法に基づく第1回の入札(R1)で2021年、秋田沖の洋上風力発電事業を落札した三菱コンソーシアムが前日、事業からの撤退を表明したことについても解説。「撤退の理由は、この入札が固定価格買い取り(FIT)制度だったことに尽きる。FITの最大の弱点はインフレに弱いこと。資材価格が上がっても売電価格に上乗せできない仕組みだ。日本は長らくインフレとは縁がなく、そのリスクは顕在化しなかったが、入札直後の2022年にロシアによるウクライナ侵攻が始まった」と述べた。
政府が、この海域の事業者を再公募する意向を示していることに触れ、「運転開始時期は、今年秋以降に公募する『R4』の後にずれ込むと考えるのが現実的で、商用運転開始が2030年代中盤以降にずれる可能性ある」と指摘。その上で「秋田は環境影響評価や風況調査、地元との合意形成に取り組んできた。例えば、三菱コンソーシアムが所有する調査資料を後継事業者に渡すなどして、工程を短縮することは可能になるのではないか。そうした点を許容する新たな指針作りが求められる」と提案した。
日本の再エネ市場については、「狭い国土であるがゆえに今後成長が見込めるのは洋上風力だ。再生可能エネルギーの重要性は変わっておらず、洋上風力発電に適した海域がある秋田は、そのファーストランナーであることに変わりない」と締めくくった。
浅野氏は、ことし10月23日に「再生可能エネルギーと地域創生」をテーマに秋田市で開く第48回経済同友会東北・北海道ブロック会議でパネルディスカッションのコーディネーターを務める予定。講演会は、会員の再エネに関する理解を深めようと総務企画委員会が企画。会員やブロック会議のパネリストら計50人が聴講した。
