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  • デジタル通貨発行の計画はない/第4回会員例会、日銀秋田支店長が講演

      本年度の第4回会員例会が8月20日、秋田ビューホテルで開かれ、会員39人(代理を含む)が出席。日本銀行秋田支店の村國聡支店長が「キャッシュレス決済の現状と新たな動き」と題して、▽お金とは何か▽キャッシュレス決済の現状▽新しいキャッシュレス決済の動き▽中央銀行デジタル通貨―を軸に講演した。

    講演する村國聡支店長

    ◆お金とは何か
     日本銀行は1882(明治15)年の設立で、資本金1億円。1896(明治29)年に完成した本館は辰野金吾が設計した。従業員は約5000人。
     お金の機能としては交換の媒体(支払い手段)、価値の保蔵・尺度が挙げられ、特質としては一般的受容性、必ず受け取ってもらえるという信用などがある。また、通貨の流通が無限のループになっていることから一般的受容性、通貨に対する信認が分かる。
     「お金」=「お札(日本銀行券)」というイメージがあるが、お金の歴史は中央銀行よりずっと古い。お金は紀元前から存在するが、最古の中銀のスウェーデン・リスクバンクでさえ1668年の設立となっている。ではなぜ中銀がお金を発行するのか。
     日本銀行の目的は物価と金融システムの安定であり、これが機能することで安心してお金を使うことができるようになる。また、日本銀行の役割は物価安定のための金融政策を立てたり、金融システム安定のための最後の貸し手になったりすることである。ちなみに、昨年3月末の日銀のバランスシートは資産528兆5200億円のうち、国債が448兆3261億円となっている。

    ◆キャッシュレス決済の現状
     個人消費支出の決済手段としては現金がトップで48.2%。クレジットカードが31.4%、口座引き落とし10.5%、プリペイド式マネー5.0%、インターネットバンキング1.4%、このほかキャッシュカードで振り込み、デビットカード、フィンテックサービス、給与天引き、仮想通貨などで、キャッシュレス決済比率は計51.8%となっている。
     キャッシュレス決済額はクレジットカード、電子マネー(プリペイド型)を中心に増加しているが、率は、韓国やイギリス、シンガポール、カナダ、オーストラリアなど他国に比べると少ない。要因としては振り込みや自動引き落とし、ATМなど銀行オンラインの発展、広範なATМ網などにより、現金へのアクセスが容易なことが挙げられる。ちなみに個人の給与受け取り口座からの出金の50%以上が口座振替・振込になっているなど銀行のオンライン決済は広く利用されている。
     キャッシュレス決済について、クレジットカードは約30%の人が週または月に1度は使用しており、電子マネー(カード)は20%を超す人が週または月に1度は使用している。デビットカードについては70%を超す人が保有しておらず、スマーフォン決済も50%が使用していない。なお、キャッシュレス決済へ移行する場合の動機についてはポイント付与の増加、使用可能店舗の拡大、個人情報保護の拡充などを挙げている。

    ◆新しいキャッシュレス決済の動き
     <QRコード決済>
      顧客にとってはスマートフォンのほぼ全端末で利用でき、加盟店にとっては専用端末が不要なので初期導入コストが低い。また、システムアップデートが容易だ。中国での成功事例があり、インバウンド・アウトバウンド効果が期待できる。決済手段はクレジットカードやプリペイド・デビットカードなどで、プリペイドタイプではチャージが必要になる。また、銀行口座から即時に引き落とすサービスもある。
    <NFC決済>
     顧客にとっては店頭でモバイルを端末にかざすだけで決済できるので利便性が高い。本人確認を省略したものが主流で決済金額に上限があるが、中には本人確認で高額決済を可能にするものもある。非接触IC型決済サービス(iD、QUICPay)は当初クレジットカード決済だったが、最近はデビット・プリペイドカードとの紐付けも可能になった。ウォレットサービス(おサイフケータイ、Apple Pay、Googie Pay)は電子マネーやクレジットカードなどをまとめて管理するアプリで、一種の財布のようなものになっている。

    ◆仮想通貨の動向
     仮想通貨の価格は2017年末にかけて急騰した後、大きく下落。その後も粗い値動きをしている。主要な仮想通貨であるビットコインの主な取引対象通貨をみると、中国が国内での対人民元でのビットコイン取引を事実上禁止して以降、日本円、米ドル、韓国ウォンの比率が高くなっている。
    <Facebookの暗号試算「Libra(リブラ)」>
      Libraは複数通貨を裏付けとする暗号試算で、2020年上期に運用開始を予定。グローバルに利用可能な即時・安価な決済手段の提供を企図し、金融包摂も意識している。現時点ではFacebookを含む28社が投資家としてプロジェクトに参加しており、運営側は運用開始までに投資家数を100程度想定している。  

    ◆中央銀行デジタル通貨
     中央銀行がデジタル通貨を検討している国としては、現金の使用が低下しているスウェーデンやノルウェー、フィンテックを経済発展の起爆剤にしたいエストニア、経済・財政危機のベネズエラやエクアドルが挙げられる。ちなみに、スウェーデンでe-krona(イークローナ)が定着している背景には、クレジットカードやデビットカードに加えて、スマートフォンでの送金サービスが普及し、現金を受け付けない店舗が増えていることがある。しかし問題もあり、スウェーデン中央銀行は「安全な中央銀行マネー(現金)を使える機会が減り、決済システムの頑健性低下につながりかねない」と指摘している。
     一般の人たちが現金代わりに使えるデジタル通貨を発行することは、銀行の預金・貸出への影響など検討すべき点が多く、日本銀行はデジタル通貨を発行する計画を持っていない。海外の多くの主要中央銀行も同じだ。しかし、新技術への対応は欠かせない。新しい情報技術は決済など金融サービスの効率性や利便性の向上に結び付き、経済成長にもプラスとなり得る。そのためにも、決済のイノベーションに対応し新技術を深く理解する必要がある。  

    日銀秋田支店長が講演した第4回会員例会

    ※参考
     村國聡(むらくに・さとし)氏
     昭和46年、東京都生まれ。一橋大学経済学部卒業。平成6年、日本銀行入行。総務人事企画役、発券局戸田発券課長、システム情報局システム企画課長などを経て令和元年6月17日付、日本銀行秋田支店長。

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